助産師 小林昌代
私が助産院で出産した時、その先生に最近の若い人は女の底力がなくなってきているという話をよく伺いました。私はふ~~ん・・という感じでしか聞いていませんでしたが、底力とは、つまり骨盤底筋群であったことに気が付いたのは、私自身が若草でお産を取り上げるようになってからでした。 開院当初、体つくりは完璧なのに産後出血してしまう方が何人かいました。こんなに体はいいのに、どうして出血してしまうのかがわからず、私が出産した助産院の先生に聞いてみたりもしましたが、納得がいく答えは得られませんでした。いろいろ文献を調べ、お産がとても安産と言われているアフリカの女性について体の違いなども調べたり、いろいろな文献を調べ、どうしてそうなってしまったのかを知ろうとして苦しんだ事がありました。
そんな時、理事長の一言。しこふみでもやればいいんじゃないの?というヒントから光りが見え始めました。西洋医学を学んでいたせいなのか、体の内面ばかりに気を取られ、外側、つまり、筋肉、骨、腱についての視点が抜けていたことに気が付きました。
出血がだらだら続くとき、出産して下がったままの子宮、開いたままの子宮口、そんな時は、内診して、下がった子宮をちょっと上に押しやったり、開いたままの子宮口を持って振ってあげると、キュッという感じで上の方に戻っていきます。このような事がわかると、やはり、産後、子宮が元に戻る機能、つまり、筋肉の収縮、腱がきちんと引っ張って戻す、骨盤が開きすぎていない事等が、産後の子宮が戻ることに大変重要であるのではないかと気が付きました。
それから、骨盤底筋群強化の日々が始まりました。まずは自分自身で体験。3人産んで尿漏れがあった私はすぐさま筋トレを開始、スクワットの日々が始まりました。本式のスクワットの仕方を調べ、どこの筋肉が発達するのか、歩くのとはどう違うのかを調べました。また、妊婦さんが行うためには、本式のスクワットではおなかに負担がかかるため、どのようにしたらあまりお腹に負担がかからず、骨盤底筋群を有効にトレーニングすることができるのかを皆で検討しました。
私の尿漏れは見事に改善し、今は快調です。また前回のお産の後、あぐらで座るができなくなってしまったようなケースも、スクワットで改善されました。また、むくみがひどい場合もスクワットで改善できる事があることがわかりました。妊婦スクワットは私たちにいろいろな良い効果をもたらしてくれました。その結果、出血が多くて病院に受診しなくてはいけないケースは激減して、数年間そのような方はいませんでした。
底力がなくなってしまった原因は、和式トイレではなくなったことと、着物を着なくなって足を開いて歩くようになり、骨盤が開いてしまったせいだという事を聞いたことがあります。私もその考えと同様な印象を持っています。生活スタイルの変化は出産にも大きな影響を及ぼすことを知り、時代にあった安産のお手伝いができる産婆になっていかなくてはいけない事を痛感しています。とにもかくにも女の底力は必ず守っていかなくてはいけないことは間違いないと考えます。女子が産まれたら、なおさら小さい時から、底力を意識した子育てができるよう、私もアドバイスしていきたいと考えています。
(会報誌「満月」2013年9月号に掲載)