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「弁当の日」から食育を考える

食養指導士 小林哲朗

玄米酵素のオンラインセミナー竹下和男氏講演会「弁当の日で何が育つのか」が8月20日に開催されました。竹下氏のお話から食育について考えてみました。

子どもが作る「弁当の日」

子どもが作る「弁当の日」とは、2001年(平成13年)、香川県滝宮小学校で当時の校長竹下和男氏が始めた食育の実践活動です。弁当の日のルールは3つです。

弁当の日のルール
  1. 献立、買い出し、調理、弁当箱詰め、片づけまでを全て子どもだけにさせる。
  2. 5・6年生だけが対象。
  3. 10〜2月に月1回で計5回繰り返す。

親が手伝わないというのが基本ルールで、5、6年生が対象なのは、家庭科で弁当の作り方を教わるから。2001年4月のPTA総会で発表したそうです。そして竹下氏の予想通り、保護者からは反対が相次いだそうです。理由は「包丁を持たせていない」「コンロを触らせていない」「早起きできない」などでした。それでも、何かあった時は自分が責任を受けるという覚悟でとにかく始めたそうです。

実際にやってみると、子どもたちは大喜びでした。最初は親に手伝ってもらう子がほとんどだったようですが、回数を重ねるうちに徐々に上手になり、全部を自分で出来るようになっていったそうです。実施後の反響は大きく、子どもたちからは「食事を作ることを嫌がらずにやってくれる親に感謝したい」「とても大変だったけど楽しかった」、保護者からは「親子の会話が増えた」という声がたくさん寄せられました。

実施後の反響

子ども「親に感謝したい。」「大変だけど楽しかった。」
保護者「親子の会話が増えた。」「やらせたらできると分かった。」
教職員「クラスが活性化した。」「多様な個性が見えてきた。」

子どもが健やかに育つ3つの時間

子どもが健やかに育つ3つの時間があると言います。「暮らしの時間」と、家族と共に過ごす衣食住に関わる時間で、心身の健康の基礎となります。「遊びの時間」は、地域で年齢層の異なるこどもたちが群れになって遊ぶ時間で、社会性とコミュニケーション能力を付けます。「学びの時間」は、学校や習い事の場で自分の長所を見つけそれを磨きます。「暮らしの時間」と「遊びの時間」では非認知能力が育まれ、「学びの時間」では認知能力が養われます。

戦後、経済が成長し、学歴社会が進む中で、「学びの時間」が重視されるようになり、塾や習い事の時間がどんどん増えていきました。逆に「暮らしの時間」と「遊びの時間」は削られていき、例え家の中に居ても、家事の手伝いや家族との交流より勉強をする方が大事という風潮が生まれ、多くの親が子どもたちに「あなたの仕事は勉強することでしょ」と言うようになりました。しかしこの事により、子どもたちは人格形成の場と時間を十分に持つことができなくなってしまいました。子どもは大人の真似をして成長していきます。

弁当を作ることは大人のやる事で、それをやる事は自立への第一歩です。子どもはたちは料理を作ることの楽しさを体験で身につけ、親になって子どもを育てることの意味を学びます。竹下氏は「弁当の日」は子どもが台所に立つ意義を大人が考え、子どもが自立するための環境を作ることが目的で、子育ては楽しいと言い切れる大人を増やしたいと言います。

「弁当の日」を体験した子どもたちももう30 歳を超えました。あの子たちもきっと自分の子どもを台所に立たせたいと思うはず。百年後を変えるため、日本の社会が良くなるようにこの活動を始めたと話します。良い活動なので、すぐに全国各地に広がっていくのではと思ったそうですが、実際にははなかなか広まらなかったそうです。それでも少しずつ色々なところで取り上げられるようになって、徐々に周知されるようになり、現在では全国で2千校近い学校が実施するまでになりました。(21年4月現在)

今結婚したがらない、結婚しても子どもが欲しいと思わない人が増えていますが、この背景には「暮らしの時間」の量と質が大きく減ったことがあるのではと思いました。親になって子どもを育てるとはどんなことかをほとんど体験せずに大人になってしまうことで、家族とのきずなや家庭の大切さ、子育ては楽しいといったことを心と体で感じることができなかったからではないでしょうか。もちろん経済的な要因も大きいのでしょうが、こちらの方がより深い問題のように感じました。