助産師 福島美紀
5月から始めたベビーマッサージ講座も11月の開催で5回目となりました。繰り返し参加してくださる方もいて嬉しい限りです。いつもお母さんと赤ちゃんたちが触れ合うあたたかく優しい空気に包まれていて、講師であるわたしも幸せな気分をたっぷりと味合わせていただいています。
ベビーマッサージは世界中の様々な地域で健康法、育児法として伝統的に実施されてきました。それが欧米に伝わり、早産や低出生体重などの理由で新生児集中治療室での生活や治療を余儀なくされている赤ちゃんたちに対し、ストレスを軽減させるための技術として検証され実施されるようになりました。
これまでの研究により、体重増加の促進作用,睡眠覚醒リズムや行動発達の促進作用,ストレス反応の減少効果,栄養学的効果,低体温の予防効果,死亡率の減少など,多彩な効果の報告がなされています。このような背景をもっているベビーマッサージですが、今や治療室を離れ、地域や家庭に広がり実施されるようになりました。
さて、私たちが今みなさんにベビーマッサージをお伝えする最大の目的は何でしょう。先にあげた効果も頭の隅にありますが、私たちが一番大切にしているのは、赤ちゃんに愛してるよと伝え、絆を育み、望ましい関係性を築くこと、それにより赤ちゃんの心の発達を促すことです。子どもが社会的、精神的発達を正常に行うためには、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持することが必要であり、それが無ければ子供は社会的、心理学的な問題を抱えるようになると言われています。心理学者であり精神分析学者でもあるジョン・ボウルビィによって提唱された愛着理論と呼ばれるものです。
高校卒業後に幼児教育を勉強した私は、乳幼児心理学の時間に学習したこの理論と、それを検証したサルや人間の赤ちゃんの実験がとても印象に残っています。自分の子育ての期間にも、子どもたちの行動を見てはこの理論をよく思い出していました。赤ちゃんは親との応答的なやり取りを通して相手との親密な関係を育んでいきます。そして、安心できる関係に満足した赤ちゃんは、そこを心の安全基地として、積極的に外の世界との関係をもち、他者とのかかわり方を学んでいくことができると言われています。
ベビーマッサージの他にも赤ちゃんとの絆を育む方法は沢山ありますが、絆づくりにあえてベビーマッサージの手法を取り入れるのには理由があります。それは、皮膚と皮膚の接触により脳内でオキシトシンと呼ばれる幸せホルモンがたくさん分泌されるためです。オキシトシンが分泌されると、副交感神経が優位に働くようになり、人は心身ともにリラックスし、ストレスを軽減させることができ、また、その作用は信頼や愛情といった感情などの社会的行動にも複雑に関わっています。これは赤ちゃんだけでなく、マッサージする側でも同じこと。ベビーマッサージの時間があんなに幸せな空気で充たされているのも納得です。
ベビーマッサージ講座では、赤ちゃんと目を合わせ、笑顔で優しく語りかけ触れ合うこと、リラックスしながら、赤ちゃんとの時間を楽しむことを大切にしています。普段の生活の中でも、オムツを替えながら、お風呂に入りながら、授乳をしながら、お散歩しながら、赤ちゃんに沢山触れて、話しかけ、絆を育んでください。大好きだったおじいちゃん先生が言っていました。子どもの成長に一番大切な栄養は『ビタミンI(愛)』だそうですよ。