不妊治療のあり方について考える

食養指導士 小林哲朗

急遽辞任した安倍首相の後に総理大臣になった菅総理大臣の目玉政策の一つとして不妊治療を保険適用にしようとしているようです。不妊治療を保険適用にする目的は何か?子どもを産んで育てたいけれどなかなかできなくて不妊治療をしている人は年々増えている。不妊治療の費用は高額で、経済的な負担は大きい。だから保険適用にして負担額を減らしてあげましょう・・。何となく分かるような気もしなくはありませんが腑に落ちません。そもそも不妊治療をしている人は当たり前のことですが、好きで不妊治療を受けている訳ではありません。その人たちにとって不妊治療は目的でもなんでもなく、妊娠出産して子どもを育てたいだけです。そうであるならば、まずは不妊が増えている原因を考える必要があります。

不妊が増えている原因は何か?

厚生労働省によると、平成27年の調査では、日本で実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は、全体で 18%、子どものいない夫婦では28%とのことです。また体外受精で生まれた子は20人に1人でした。不妊が増え続けている主な原因には生活習慣の乱れやストレス、晩婚化などが挙げられます。原因があって結果があるのであり、不妊治療のクリニックや病院を儲けさせることが目的でないならば、まずはこれらの原因を取り除くような施策を行えばよいのです。

初婚・初産年齢を下げる施策

結婚年齢、出産年齢が高止まりしている要因には、低所得、非正規労働による雇用の不安、仕事と子育ての両立が難しいことなどがあるので、これらを解消する施策が必要です。自然妊娠でも、不妊治療による妊娠でも、高齢になればなるほど難しくなるのは分かっているのですから、妊娠しづらくなってから不妊治療にお金と時間を使うより、最初からこちらの対策に注力する方が当然賢いやり方だと言えます。

不妊は深刻な問題である

不妊とは

そもそも不妊とは何か。公益社団法人日本産科婦人科学会によれば、「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいう。(同会ホームページより)どういう風に定義されているのかと思って調べてみたのですが、「健康な男女・・」という言い方にはさすがに違和感を覚えます。健康じゃないから妊娠しないのに・・。それでは「健康とは何か?」こういう話をするとキリがないのでやめますが、結論から言いますと、自然妊娠しないというのは大変なことなのです。生物として。

基本的にすべての動物は生殖を行って種を次代につなげています。人間は文明が発達して色々な事ができるようになりましたが、根本的には他の動物と変わりありません。いい悪いではなく、そういう存在なのです。そして、この何を置いてもやらなければならないことができないということは、生物として本当に大変なことです。この原因をひと言で言えば、動物として健康でないからということに尽きると思います。前述の日本産科婦人科学会によれば不妊のカップルは10組に1組はいるということです。深刻な問題です。自然妊娠できない人が増えているということは、ある意味、国や民族の危機であり、不妊治療にお金を出せば済むというような問題ではありません。

根本的な対策が必要

不妊の原因は男女どちらにもありますが、いずれにしても自然妊娠できないカップルが増えているということは、たくさんの人の生きる力が低下してきていることを意味します。国は不妊の対策を不妊治療一辺倒に陥ることなく、自然妊娠できる環境作り、すなわち妊娠出産に関する教育の充実、生活習慣改善の啓発活動、若い世代が安心して結婚・子育てできる社会環境の整備などに力を入れるべきだと考えます。

不妊治療に助成する際の条件について

個人的には不妊治療そのものに助成するより、、不妊の原因・背景にある障害を取り除くことが大事であると考えていますが、それでも敢えて不妊治療にお金を出すのであれば、いくつか条件を付けるべきだと考えます。

助成年齢の上限の引き下げ

一番は助成の年齢上限の引き下げです。今は一応43歳未満となっていますが、これを例えば初産は35歳未満、経産は38歳未満などにするということです。35歳を上限にするということは、35歳までに出産して下さいというメッセージを出していることになります。逆に43歳を上限にしているということは、43歳までは大丈夫ですよというメッセージを出していることになります。

40歳を過ぎれば妊娠率は下がりますし、先天異常の割合が高くなったり、流産の割合が高くなったりします。そして何より、考えるべきことは、妊娠出産はゴールではないということです。周りに人手があってサポート体制が十分だとか、金銭的に余裕があってかなりの部分を外注できるとかでなければ、体力が勝負の子育てを乗り切ることは容易ではありません。早ければ早いほどいいという訳ではありませんが、何歳でもいいと言うことはできません。

戻す受精卵は必ず一つにする

助成する条件の二番目は、体外受精で戻す受精卵は必ず一つにするということです。仮に多胎妊娠ということになれば、妊娠中の母子のリスクが高まりますし、未熟児で生まれるリスクも高まります。無事に生まれたとしても子育ても大変になります。自然妊娠でも多胎はありますが、敢えて選択することではありません。少し前に不妊治療で三つ子を出産したお母さんが子どもを殺す事件がありました。この時マスメディアが不妊治療のあり方を全く指摘せず、多胎育児の大変さばかりを取り上げていたのは本当にひどいものでした。二つ以上戻した場合は、助成金を支払わないとか、委託事業書から外すなどの強い措置が必要だと思います。

(会報誌「満月」2020年9月号に掲載)

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