これからの感染症との付き合い方

理事長 小林哲朗

新型コロナウイルスの感染拡大

中国武漢から始まったとされる新型コロナウイルスの感染が拡大し、中国国内で広まった後、日本などの東アジア、アメリカ、ヨーロッパなどへとさらに感染拡大が続いています。世界保健機関(WHO)は3月11日、新型コロナウイルス感染症の流行がパンデミックとみなせると発表しました。人、モノ、金が世界中を移動するグローバル化の中では、いったん広まった感染症を封じ込めるのは容易ではないでしょう。
報道によれば感染者の8割が軽症ということで、取りあえずホッとしますが、日本政府はオリンピック・パラリンピック開催のことがあるので、少し冷静さを失っているというか、なりふり構っていられないという感じのようです。感染拡大の防止策の影響で仕事や学校、レジャー、日常生活のあらゆる所で大きな影響が出ています。

どうリスク管理するか

大事なのは危険度の判断

地震や台風、火山噴火などの自然災害と同じように、感染症の被害をゼロにすることはできません。病気の感染が起きた時に、いかに被害を少なくするかというリスク管理が大切となります。
この時大事になるのが、その病気の危険度を判断することです。既知の病気であればそれほど難しくないでしょうが、未知の、新しい病気の場合は容易ではありません。しかし当然ですが、ここが一番重要となります。人がバタバタ死んでいく病気と、熱が出て数日苦しいけれどそれで済む病気とを一緒に扱うことはできません。

健康で若い人も重症化しているのどうか

さらに判断する際に大切なのが、病気で死んだり、重症化したりする人の数だけでなく、その内容を見ることです。つまり、高齢者や基礎疾患を持っているような免疫力が低いとされる人たちだけでなく、平均的な免疫力を持つと思われる人たち、すなわち、健康で比較的若い人たちも重症化しているのかどうかを考慮して危険度の判断を行うべきだということです。
なぜなら、免疫力が下がっている人は普通の人ならば何でもないような病気でも重症化しやすいので、そういう人たちを含めた全体の重症者数・死亡者だけで病気の危険度を測ることは難しく、対応を考える上でもさまざまな問題が生じるおそれがあるのです。またそうした数字は一般の人には、事態がより深刻であるとの誤解を生みやすいということもあります。

ちなみに、人口動態統計の死因順位別にみた死亡数を見てみると、平成30年は上位5つが悪性腫瘍(がん)、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎の順になっていますが、5位の肺炎で亡くなった人9万4千人余りのうち、その98%が65歳以上となっています。

死因順位別にみた死亡数(平成30年)
  1. 悪性腫瘍 373,584人
  2. 心疾患 208,221人
  3. 老衰 109,605人
  4. 脳血管疾患 108,186人
  5. 肺炎 94,661人
(厚生労働省人口動態統計から)

危険度が低ければ過剰反応しない

封じ込めには必ずしも固執しない

人やモノの移動が激しい現代社会では、さまざまな危険度の感染症が、昔に比べて短いスパンで、しかも大小さまざまな規模で流行する恐れがあります。お金と時間に余裕があることもあり、免疫力が低い高齢者が海外を含め色々な所を移動・旅行することも多く、感染症のリスクはより高まっていると言えるでしょう。
病気に対する免疫力は、病気ごとに、人種や民族、年齢、生活習慣などによって異なりますし、もちろん個人差もあります。それらも考慮に入れた上で病気の危険度を判断し、各国が必要な対策を考えることになりますが、大事なことは、今の生活の利便性と感染症による被害のリスクとのバランスをどのように取るかということです。
台風に例えて考えてみます。令和元年の台風19号のように、超大型で甚大な被害が予想されるような台風の場合は、経済活動を一時停止してでも事前に十分な対策を取って備える必要があるでしょうが、例年何回か通過するような中小規模の台風に対して同じように対応するのは現実的ではありません。
同じように感染症でも、危険度が高ければ徹底的に封じ込めを図る必要がありますが、それほどでもなければ過剰には反応しないことです。つまり、そういう場合には、社会全体の感染防止に力を入れることには固執しない方がいいということです。完全に抑え込むというのは非常に大変ですし、危険度が低いのであれば、そもそも大した意味がありません。むしろ免疫力が低い人に限って隔離や検査等の対策を取る方が効率的であると言えます。

感染症のリスクとうまく付き合う

感染症の対策では、初期対応が何よりも重要です。檻から逃げ出したのが虎なのか、サルなのか、或いはウサギなのかが分からないうちは、虎が逃げたと仮定して対応しなければならないでしょう。
次は危険度の判定です。この判断に基づいて対策を考えるわけですが、闇雲に抑え込もうなどということは考えないことです。危険度が高くない場合は過剰に反応しないことが大切です。現代の世界状況を考えると、感染症の脅威は今後さらに増大するでしょう。一回で終わりではありません。何回も起こります。とんでもなく危ないと思われるモノでない限り、通常の生活を送ることを前提にし、必要であれば免疫力が低い人の対策を考えます。
季節性のインフルエンザでも直接の原因とするものだけで、日本で毎年数千人の人が亡くなっています。大したことがない感染症であれば、むしろ罹って免疫を付けた方がいいくらいです。感染症のリスクとうまく付き合っていくことがこれからは必要となるでしょう。

(会報誌「満月」2020年3月号に掲載)

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