看護師の内診問題が表面化
今、産科において、医師の監督の下に、看護師に内診などの助産行為を認めるかどうかをめぐって議論が行われています。以前より看護師による内診は違法で、問題ではないかとの指摘もありましたが、実際には、日常的に行っている個人の診療所も少なくなく、厚生労働省も違法との認識はあっても、表立った問題とはしてきませんでした。ところが数年前に、一転して、看護師の内診は違法、禁止との通知が出され、この問題が一気に表面化することとなりました。
診療所などが看護師を使う理由は、主に、人件費が助産師に比べて安いこと、助産師の募集をかけてもそもそも集まらないなどの事情にあるとされています。日本産婦人科医会は、再三にわたって看護師の内診を認めるようにと厚生労働省に要請を行い、最近では、18年4月に改正予定の保助看法に、これを認める内容を盛り込むかどうかが激しく議論されました。
産科における医師、助産師、看護師の役割の見直し
私はこの問題は、産科における医師、助産師、看護師の役割(とりわけ助産師の)を改めて考え直す良い機会ではないかと考えています。つまり内診問題の背景の一つである、助産師の就業率の低さに、医師と助産師との役割分担が関係しているのではないかと考えているのです。
ご存知のように、助産師は保助看法で、正常産の範囲において、自らの判断で分娩介助をすることが認められています。開業権もあります。しかし実際には、大半の助産師が病院或いは診療所で働いており、しかも正常産の分娩を取り扱う場合でも、ほとんどの施設が内部規則で分娩時に医師の立ち会いを求めています。つまり、法律上はともかく、現状では助産師の多くは医師の指示のもとに動いており、ある意味、助産師は産科をより専門的に学んだ看護師として働いているとも言えます。おそらく、大半の消費者もそのように捉えているのではないでしょうか。こうした状況に特に違和感を覚えない助産師も多いとは思いますが、実は法律で認められている業務権が、著しく制限されているわけで、ある意味、かなり問題であると言えます。とりわけ主体的にお産に関わりたいと思う助産師にとっては、相当不満であるに違いありません。
この状況は、現在当たり前のようになっているので、法的にどうだからと言っても仕方がないのかもしれません。ただ私は、お産により主体的に関わりたいという助産師を十分に生かし、正常産の範囲内で、自分の判断で分娩介助が出来る助産師を養成することが、現在の産科の厳しい状況を改善する上で、非常に重要だと考えています。役割分担を明確化することで、医師の負担を軽減することができ、なおかつ助産師の就業率自体も高まることが期待できると考えています。
今の産婦人科医は、抱え込み過ぎで、意欲のある助産師のやる気もそいでいる状態だと思います。目指すところは同じで、安全が最優先されるべきだとしても、そこで働く人たちがやりがいを持って、納得して仕事ができるということもとても大切なことです。もちろん正常産の分娩介助をするだけが助産師の仕事ではなく、周産期センターで日々、ハイリスク分娩に向き合っている助産師もいるでしょう。業務に優劣がつけられないのは当然ですが、業務の範囲が広く、その内容や質が大きく異なるのであれば、助産師を何らかの形で分けるということもあっても良いのかもしれません。私は、現在行われている助産師養成のほかに、さらにある一定の教育や訓練を受けた者に対して、その本来の業務を保証するということも検討してもいいのではないかと考えています。
内診問題をどう捉えるか
看護師の内診問題そのものについて一言。診療所の多くは、医師がお産を取り上げるので、実際、助産師を必要としないところは多いはずです。ただ全ての助産行為を医師一人がやるのは大変なので、一部を看護師にやらせたいということでしょう。助産師を雇って、医師がお産を取るのでは、助産師を雇う意味が薄いので、気持ちは分からないことはありませんが、看護師による内診を認めるということは、明らかにサービスの質が低下することを意味しますので、消費者の立場からすれば、簡単には認められないことです。地方によっては、医師、助産師の数が絶対的に足りない地域があるそうで、そうした所では地域や期間を限定して、何らかの対策を講じることが必要かもしれませんが、その際でも、どういう資格の者が、どういう教育や訓練を受けて、どういう処置を行うかということを消費者が事前に分かるということが、最低限必要なことでしょう。