現状の問題点と課題

日本では、戦後間もない頃まで、お産のほとんどが自宅で行われ、そのほとんどは産婆さんが取り上げていました。しかし戦後のGHQの指導により、自宅分娩から、施設分娩への移行が行われ、また医師がほとんど全てのお産を管理するようになりました。

その後は、検査技術の進歩により異常を早期に予防できるようになったことや、薬剤の開発や分娩監視装置などの普及、帝王切開術などの医療技術の進歩、NICU(新生児集中治療室)の整備などもあり、日本における周産期死亡率や妊産婦死亡率はめざましく改善されました。

しかしその反面で、正常、異常に関わらず、お産は医療主導で行われることが一般的になりました。また最近では、低出生体重児の増加や 帝王切開率の上昇などの問題も指摘されるようになっています。

お産の主体が見えない

周産期死亡率や妊産婦死亡率が低下する一方で、医療主導のお産が一般的になりました。お産にはリスクが伴いますが、お産は自然な行為であり、病気ではありません。医療においては、安全は最優先されるべきものですが、同時に、その内容や過程(プロセス)も非常に大事であり、可能な限り、そこに産婦の希望が反映されるべきものであります。

人それぞれに個性があるように、お産も人それぞれに違います。もちろんリスクの度合いも異なります。そうしたお産の個性を考慮したり、お産に対する本人の希望を受け入れたりするということは、残念ながら、現状では十分に行われているとは言えません。

お産の主体は、本来産婦とその家族です。少なくとも妊娠・出産の過程が正常の範囲においては、産む側の意志や希望は十分に尊重されるべきものであり、医療者が、単に結果を提供するというものではない筈です。医療主導のお産が一般的になり、お産の主体が見えなくなってきているということは、とても大きな問題であるといえます。

慣習的に行われる会陰切開、導尿、浣腸、血管確保

科学的にはその有効性は否定されています。導尿や浣腸を行う施設は減ってきているようですが、会陰切開については、希望しない産婦が多いにも関わらず、初産婦は全例行っているという施設が依然として少なくないようです。

分娩台による仰向けの出産

産婦にはつらい姿勢と言われていますが、医療者には処置がしやすいために一般的に普及しました。

医療機関側の都合での医療処置

休日・夜間・早朝での分娩を避けようとして、陣痛促進剤を使用するなどして、お産をコントロール しようとすることがあります。しかし、こうした自然のリズムに逆らった薬剤の使用は、時に母子を危険な状態にさらす恐れがあります。

低出生体重児の増加

低出生体重児(出生体重2,500g未満児)が増えています。人口動態統計によれば、2,500グラム未満の赤ちゃんは全体に占める割合は、1951年には、女子が8.3%だったのが、2007年では10.8%、同じく男子では6.4%だったのが8.5%となっています。また1,000グラム未満の赤ちゃんは、1951年には男女合わせて114人だったのが、2007年には、3,414人(全体の0.3%)となっています。

原因としては、不妊治療により多胎が増えたことや若い女性の喫煙率の上昇、やせ過ぎ妊婦の増加などが挙げられ、また早産が増えていることも関係しているといわれています。

NICUの整備により、これまでは助からなかった低体重の赤ちゃんの多くが生きられるようになってきましたが、それでもその数はまだまだ足りていません。しかしNICUの設置には資金や医療スタッフの確保が必要であり、なかなか容易ではありません。低出生体重児は、機能障害やその後の発達障害のリスクが高まると言われており、生まれてからの対応とともに、できるだけ予防していくことができるかどうかが大きな課題と言えます。

◆お産のデータ:出生時体重の年次推移

帝王切開率の上昇

帝王切開率が上昇しています。日本だけでなく、国際的にみても帝王切開率は上昇する傾向にあります。これには、妊娠中や分娩時の異常が増えたという真に医学的な要因のほかに、以前であれば経膣分娩を試みていたケースでも、訴訟のリスクを回避するために帝王切開を選択することが増えてきているといった理由もあります。現在では、骨盤位(逆子)や双子のケースも多くの施設において帝王切開が実施されていますし、前回のお産で帝王切開だった場合、次も帝王切開というところがほとんどです。その他帝王切開によるお産のリスクが低くなったことや産婦の側の意識が変化しているということも背景としてあるようです。

◆お産のデータ:帝王切開の実施率
◆お産のデータ:帝王切開率の国際比較

緊急時や経膣分娩が困難な場合に、帝王切開によって、赤ちゃんが無事に生まれることができるようになったこと自体は素晴らしいことですが、帝王切開の実施率が全体的にどんどん上昇していくというのであれば、これは問題です。 帝王切開が増えている理由を調べ、リスクを高めることなく、その実施率を低く抑える方策を考えていくことは今後の課題です。

ローリスク分娩とハイリスク分娩の混在

一般的に、診療所では正常・ローリスクの分娩を取り扱い、病院ではハイリスク分娩を取り扱うというイメージがありますが、実際には周産期母子医療センターや大学病院なども含めた多くの病院において、正常・ローリスク分娩がかなりの数で取り扱われています。理由としては、周りの診療所などが閉鎖されて出産できる施設が減ってしまったことや、経営上の問題といったことが考えられますが、あまり好ましいことではありません。

なぜなら、そうした施設の本来の目的である、緊急性の高いハイリスク分娩に十分対応できなくなる恐れがあること、また、正常・ローリスク分娩とハイリスク分娩が混在することによって、正常・ローリスク分娩のサービスの質が低下する恐れがあるからです。

例えば、正常な経過のお産とリスクの高いお産が同時進行している場合、施設としてはリスクの高いお産の方に、より注力することになります。これはある意味当然のことですが、必然的に、正常な方のケアは手薄になってしまいがちです。「病院で出産したとき、自分のところにほとんど人が来なくて寂しかった」と嘆く声を聞くことがありますが、こうしたことは、そうした一因になっているとも言えます。

人手が足りない要因には混合病棟化が進んでいることなどもありますが、いずれにしても、こういうことが常態化するようであれば、産婦としてはたまりませんし、いかに正常・ローリスク分娩といえども、思わぬ危険を招く恐れがあります。また医療者側としても、正常・ローリスク分娩に対するのとハイリスク分娩に対するのとでは気持ちの在り様もだいぶ違ってくるので、正常・ローリスク分娩とハイリスク分娩の混在は、その切り替えも大変となります。病院において、今後も正常・ローリスク分娩を取り扱っていくのであれば、こうした問題を解消していく方策を考えていく必要があるでしょう。

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