予防接種に関するQ&A

~2011年2月26日新井秀雄氏講演「予防接種講演会」でお答えできなかった質問から~

元国立感染症研究所主任研究官の新井秀雄氏を講師にお迎えして、2月26日に千葉市民会館で開催した予防接種の講演会では、参加された方からたくさんの質問をいただきましたが、時間の関係上、全てにお答えすることができませんでした。後日、新井先生の方に改めて質問させていただき、その回答をいただきましたので、ここでご紹介いたします。

Q. 自然感染で症状が重かった場合と、発症しなかった場合、免疫力に差はありますか。

A. 微生物の病原体(病原微生物)に感染したとき、もしもからだがそれまでにその病原体に対して「免疫」を獲得していないと(母子免疫の場合を除けばの話しになりますが、過去にその病原体に感作されて免疫状態になっていない、つまり免疫記憶の状態になっていない初感染の状態です。乳幼児ではこの状態がほとんどであり、次々に感染を経験し、その感染経験を通して次々に個々の免疫記憶が出来上がっていきます)、時には種々の程度の症状がでることになります。

症状の程度は、病原体の量(感染発症を起こすに必要な最少量)と質(病気を起こす力=病原性が強いか弱いか。同じ病原体でも型によって強かったり弱かったりする)ばかりでなく、その時の体力(感染防御の力=抵抗力、健康状態や免疫力も含まれます)にも左右されます。つまり、同じ量と質の病原体に感染しても、からだの感染防御力の程度如何によって症状が重かったり、軽かったり、時には感染したこともわからずに(つまり症状が出ないで)経過することもあります。この意味で日頃から睡眠と栄養に十分配慮して健康状態を保つ(元気に活き活きとしてる状態の保持)ことが重要となります。

感染に気づかずに経過しても、身体の中ではしっかり感染したことが記憶される(免疫記憶)されることも多く、このことは血液の中の抗体を調べることで判る場合もあります。個々の病原体に対する免疫状態を抗体検査で調べてから個々のワクチンの接種を考えるのが理想的ですが、現実的には特別の場合以外は抗体検査をしてからワクチンを接種することは希です。

ご質問に的確な答えになっていないかもしれません。感染をうけて発症するか否かは、単純に免疫力だけで決まるものではなく、免疫力を含めて広くからだの病原微生物に対する防御力の総体によるとお考えください(逆にたとえ抗体検査である程度の免疫状態が確認されても、たとえばその病原体に一時に大量感染を受けたりした場合には危機的になることもあるでしょう)。

Q. 抗生物質による免疫力の低下はあるとお考えですか。

A. 抗生物質として利用されているものは、細菌(またはカビ)に対するものです。今のところ病原性ウイルスに対する抗生物質と呼ばれるものは(つまり病原性細菌やカビに対する抗生物質に相当するものは)ありません。抗ウイルス剤と呼ばれるものはあります(インフルエンザや帯状疱疹などで使用されていますが、ウイルスそのものに作用してそれ自体でウイルスを死滅させるものはありません)。

各種の病原細菌などに対する抗生物質は、その病原細菌などが抗生物質に耐性でなければ、その病原細菌などに直接作用して死滅させることができます。従って、感染の初期(からだの中で病原細菌などがまだ増殖しないうち)に抗生物質投与によってその病原細菌などを死滅させると、からだの方がその病原体に反応して免疫の機構が確立される前に死滅してしまう可能性もあります。この場合には、その病原体に対するからだの免疫力(免疫記憶)は賦与されないままで収まってしまうことになりますから、次に同じ病原体の感染を受けた場合は、また初感染と同じ経過をとりこともあり得ます。

これとは別に、一度確立された免疫記憶(特定の病原体に対するからだの免疫状態)そのものが抗生物質投与によって直接減弱されたりすることはないだろうと思います。しかし抗生物質も完全無害ではあり得ませんから何らかの害作用を生体細胞や生態系の機能に影響を与えている可能性はあると思います。現在はまだ表面にでていない(把握されていない)としても、免疫系の種々の機能に影響している可能性は否定できません。

Q. 日本では、ポリオの自然感染はかなり長い期間発生していないと聞きますが、 そもそもポリオのウイルスはどういう状態で存在しているのでしょうか。 予防接種と海外から持ち込まれること以外でポリオに感染する可能性があるとすれば、どういうことが考えられますか

A. 人の中だけで流行する感染症です。その点では天然痘と同じです。ご質問のように、現在は野外株によるポリオの発生がみられる国は限られてるようですから、この海外から持ち込まれる以外では生ワクチン由来のポリオウイルスが問題とされてますが、日本では、既に野外株による感染例はなくなり、ワクチン由来のポリオウイルスも希に偶発的にみることがある程度のようです。

※参考URL
ポリオ根絶に向けて(世界の現状、日本の現状)
http://idsc.nih.go.jp/training/10kanri/miyamura.html

Q. 食べ物で取り込む菌(キノコやヨーグルト・ぬか漬けなど)が病原菌に対抗しうる可能性はありますか。

A. 可能性はあるかもしれませんが、だれでもが納得いくような実験成績となると探し出すのが難しいかもしれません。乳酸菌のなかには有益なものも少なくないと聞いてますが、その場合は病原菌に直接作用するのではなくて、からだの健康状態に関係することで間接的に病原体に対処するからだ作りをすることになるのかもしれません。或いは、からだの中で常在菌の棲み分けに働いて病原体と拮抗する可能性はあるかもしれません。

Q. 感染症研究所の中では先生のお考えに近い方はどれくらいの割合でいらっしゃいますか。

A. 自分の考えを明確にしてしまうと研究所の中で孤立することも覚悟しなければなりません。そのことによって研究費とか共同研究の参画とかで閉め出されることが危惧されますから、表面的にはなかなか出しにくいのが現状です(研究者としての前途が閉ざされる可能性が強い)。

しかし、一つだけはっきりしていたのは、私の廻りの研究室の職員の中で、毎年インフルエンザのワクチンを接種している者、また家族にそのワクチン接種を勧めている者は私の知る限りでは皆無でした。 旧厚生省管轄の国立公衆衛生院で研究されていた母里啓子さんのことは、皆さまよくご存知のことと思います。

(会報誌「満月」2011年5月号掲載)

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