お母さんスイッチについて思うこと

助産師 内堀由美子

先日、新生児訪問で伺ったお母さんからの訪問依頼のはがきの既往歴に、「食道閉鎖・手術」と書かれてありました。食道は口腔と胃をつなぐ器官です。閉鎖という状態で生まれてきた赤ちゃんは、栄養を胃の管から摂ることになります。「育児室の亡霊」という米国の本の中に、胃の管から栄養を摂った赤ちゃんは、母親となったときに、母乳育児に対する困難を抱えると、写真付きで記述されていました。赤ちゃんを抱かずに哺乳瓶でミルクを飲ませる姿がすごく印象的で、人は育てられたように子を育てるのだなあと考えさせられた文献でした。

訪問前はそのイメージもあって、きっと人工乳だけかもしれないなあ、と思っていました。実際訪問してみると、確かに混合でしたが、「今後母乳だけにしたいから、アドバイスをしてほしい!!」とすごく熱意をもっておっしゃられ、びっくりしました。でもよく話を聞いてみると、やはり、最初は子どもにおっぱいをふくませることにとても抵抗があったそうです。また、産院で人工乳の話を聞いて、「母乳と成分がほとんど同じならこれでいいじゃん」と人工乳にしようと思っていたとおっしゃっていました。ではどうして母乳をあげる気になったのか、それは、継母の影響だったということでした。継母に母乳の良さを説明されて、やってみようという気になったそうです。

たくさんのお母さんと出会って思うのは、たくさんの言葉を使ってお伝えするよりも、お母さんがそのことに自発的に気付いたほうが回転は速いということです。言い換えれば受動的に得た知識よりも能動的に得た知識のほうが頭に強くインプットされて、実行に移しやすいということです。

その人のスイッチは、前述のお母さんのように、継母との信頼関係であったり、それは人さまざまです。どこにあるのかを探しつつ、また、たとえ見つけられなかったとしても、自分の正しいと思えることをただ淡々と伝えること、そうすることで、もしかしたら、いつかスイッチが入ったときに、そういえばあの助産師さんに言われたなあと思い出して下さる時があるかもしれないと思うようになりました。だから、出会えて関わりを持たせていただけることに感謝して、丁寧に、自分の信じることを伝えていきたいと思います。

(会報誌「満月」2012年3月号に掲載)

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