「早期母子接触」実施の留意点

早産児に対するカンガルーケアと区別

日本周産期・新生児医学会、日本産科婦人科学会などの関係団体は、カンガルーケア中の事故が相次いだことなどから、これに関して『「早期母子接触」実施の留意点』をまとめて発表しました。

カンガルーケアとは、出産直後の赤ちゃんを、母親が裸のまま胸の上で抱くケアのことをいいます。もともとは早産で小さく生まれた赤ちゃんに対して始まったものですが、早期の母子接触が母子の絆を強めることや、母乳育児に入りやすいなどの効果が認められたことから、正期産の一般の赤ちゃんに対しても広く行われるようになりました。

しかし最近になって、正期産の新生児に対するカンガルーケア中の事故が相次いで報告され、中には重い障害が残ったとして訴訟になるケースもあることが明らかになりました。こうしたことを受けて、関係団体が話し合い、正期産の新生児に対し、出産直後に分娩室で行うカンガルーケア(早期母子接触)を行うにあたっての留意点やその適応基準についてまとめました。

「早期母子接触」実施の留意点(概要)

1.正期産新生児の出生直後に実施する母子の皮膚接触を「早期母子接触」と呼び、早産児にNICU(新生児集中治療室)内で従来から実施されてきた母子の皮膚接触とは区別する。

2.出生直後の新生児は、新生児の全身状態が急変する可能性があるため、「早期母子接触」の実施に関わらず、注意深い観察と充分な管理が必要である。

3.分娩施設は、「早期母子接触」実施の有無にかかわらず、新生児蘇生法(NCPR)の研修を受けたスタッフを常時配置し、突然の児の急変に備える。

4.「早期母子接触」を実施する施設では、各施設の実情に応じた「適応基準」「中止基準」「実施方法」を作成する。

5.妊娠中に、新生児期に起き得る危険状態が理解できるように努め、妊婦およびその家族に「早期母子接触」の有益性や効果だけではなく児の危険性についても十分に説明する。

6.分娩後に「早期母子接触」希望の有無を再度確認した上で、希望者にのみ実施し、そのことをカルテに記載する。

日本周産期・新生児医学会
http://www.jspnm.com/sbsv12_1.pdf

「カンガルーケア」に関わる事故や訴訟についての報道では、カンガルーケアと直接関係のないものまでカンガルーケアと結びつけられたり、カンガルーケアそのものに問題があると思わせたりする内容のものが少なからずありました。しかし、全国の「赤ちゃんにやさしい病院」を対象とした実態調査(2010年)によれば、原因不明のチアノーゼや心肺停止、転落事故のほかに、乳幼児突然死―乳幼児突発性危急事態の事例も報告されていますが、その頻度はカンガルーケア導入によって増加していませんでした。

しかしその一方で、こども未来財団の研究「分娩室・新生児室における母子の安全性についての全国調査」(2010年)によると65%の施設でカンガルーケアが実施されていたにもかかわらず、事前に妊婦に十分な説明をして同意を得ていたのは48%で、実施するにあたっての基準を定めているのは31%、中断・中止する場合の基準を定めているのは40%にとどまっていたことがわかりました。

早期母子接触の有効性は認められていても、人手が足りないという現状の医療体制においては、リスク要因の一つとなってしまうのでしょうか。いずれにしても、生まれたばかりの赤ちゃんは環境の大きな変化の中でまだ不安定な状態にあるので、早期母子接触を行うかどうかにかかわらず、注意深く観察しなければいけないということを、医療スタッフはもちろん、産婦も再認識する必要があるでしょう。(哲)

(会報誌「満月」2012年12月号に掲載)

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