カンガルーケア勉強会に参加して

助産師 小林  昌代

6月2日に日本母乳哺育学会主催の「カンガルーケア勉強会」に参加してきました。

内容は、4人の演者が講演し、その後会場との意見交換会という形でした。演者は、医療ライターと他医師3人で、医療ライターの方の演題は、「なぜこのような勉強会が必要になったのか」という内容でした。この方は、軸丸靖子さんという方で、平成13年11月福岡市で「カンガルーケア・完全母乳等のため脳障害を受けた新生児を抱える{患者・家族の会}」が立ち上がり、その参加メンバーは、平成21年12月から1年3か月ほどの間にカンガルーケアまたは完全母乳実施中に児が呼吸停止状態で発見され、重度の脳障害を負うことになった6家族とともに活動しているライターです。

この勉強会では、その中の宮崎、大阪、神奈川の3家族について赤ちゃんが急変した経緯が紹介されました。報告された内容の抜粋は以下の通りです。

赤ちゃんが急変した事例として報告されたもの

ケース1

帝王切開後数時間で赤ちゃんがお母さんの傍らに来て、点滴などの医療機器で身動きが取れない中、子どもと2人で放置され、気が付いたら子どもが呼吸をしていなかった

ケース2

バスタオル2枚にくるまれた子どもを連れてきて、カンガルーケアをしながら母乳を上げていた。夫はこんなに顔がくっついていて大丈夫なのか?とスタッフに声をかけたが、スタッフは見ることもなく、大丈夫ですよ。とだけ言って退室した。数十分後に部屋に戻ると言い残したが、その時間には帰ってこず、自分は呼吸をしていないわが子を抱き続けていた。

ケース3

日頃カンガルーケアを進めている医療機関が、一度不幸な転機となったとたん、「そもそもあれはカンガルーケアではない」と言い出した。

{患者・家族の会}のメンバーは誰も、カンガルーケアや完全母乳哺育の意義を否定してはいない。カンガルーケアによって事故が増えたというエビデンスもないことも知っているが、「適切に行われているか」「無理に行われているのではないか」という点が問題だと指摘しています。また、医療者に対して、メリットだけを強調してそれぞれの状況を考えず、一律に行わせるような進め方は手段が目的化していることと同じであると述べていました。

そのほか、聖隷浜松病院小児科医の大木茂氏は、生後の急変に関する全国調査を行い、各病院へアンケート調査をして急変があった場合の対応や、カンガルーケアをしているときの状況(スタッフがついているか、児にモニターが装着されているか等)についてアンケートしていました。その内容は、出生時は、生後2時間が急変しやすく、生後早期に急変するほど死亡など重症になりやすいこと、また、急変した児の73%が初産の母親だったそうです。病室において急変の第1発見者は59%が母親であること、などを発表し、最後のまとめでは、カンガルーケアは積極的に行うべし!と述べていて、その理由として、出生直後は、適応障害や、先天的な異常、早発型感染症などいろいろ起こりうるので正常新生児なんていないと考えて、カンガルーケアとは無関係にすべての母子を注意深く見守り、急変に対応できるシステムを整備すべきだ、と述べていました。また、その調査によるとカンガルーケアを導入している施設は今や78%であり、カンガルーケア導入前後を比較しても0.06/1000の確率で赤ちゃんが死亡してしまう確率は変化がないそうです。その小児科医師によると、子宮外適応症で亡くなってしまう赤ちゃんは0.15~0.14/100であり、ずっと多いということでした。

次に、東北共済病院産婦人科の産婦人科医師は、「母乳育児にかかわるものから見た実際のカンガルーケア」という演題で、病院で行っている早期皮膚接触の開始基準や、中止基準、安全対策などを発表していました。実際に2千グラム以上の児から行うことや、臍帯血の血液ガス分析の結果など詳細に決められた中でカンガルーケアを行っているようでした。

そして、聖マリア学院大学小児科医の橋本武夫氏は、カンガルーケアの用語を巡って、カンガルーケア(KC)、カンガルーマザーケア(KMC)早期皮膚接触(early skinto skin contact SSC,STS)など異なる呼称で施設ごとに呼ばれていることを指摘し、橋本氏自身は、バースカンガルーケアを推進していて、それは単に皮膚接触というだけでなく、生まれて最初の「母と子の呼び愛」でお互いのにおいなどの五感を通して母と子のきずな、愛着形成、母性の成熟への原点であるという理解をしている。と述べていました。私個人としては、橋本医師の話を聞くのが楽しみで行ったので、とても印象に残りました。母乳育児や、お母さんと赤ちゃんの早期接触の必要性を熱く語っていました。「HUGは百薬の長」だそうです。

全般を通して興味深かった点は、小児科医師が発表していた内容で、カンガルーケアがこのようにいろいろな施設で行わる前と、最近の赤ちゃんの死亡率は、変わらないという点でした。出生後2時間は急変しやすい時期で、カンガルーケアが本当に原因かどうかは定かではないそうです。ですが、出産したばかりの時に急変してしまったわが子を見るのは、とても辛く報告を聞いていた私も本当に胸が痛くなりました。生まれた子どもをそばに置きたい、お乳をくわえさせたい、と思うのは自然なことだと思います。それをわざわざ、名前を付けて行うこと自体が私には不自然に感じました。

もともとカンガルーケアは、保育器の足りない新生児施設で、お母さんが胸元に子どもを入れておいたら成長が良好になり、治療効果も上がった。というところからきており、そうなると、カンガルーケアの内容が間違っていることがとても気になります。

前に書いたジャーナリストの報告例だと、タオルでぐるぐる巻きにされた赤ちゃんを傍らにおくのは、もはやカンガルーケアではありません。このように認識が全く違う中で、カンガルーケアとひとくくりにして事故を取り扱うのは、原因の解明にもつながらず、ただ、不安をあおるだけでしょう。

今後は、原因解明のためにも医療者内で認識を同じくすることが大事なのではないかと考えますが、なによりも、出産後に、自然にわが子を胸に抱きたい、お乳を吸わせたいと思うような妊娠中、お産へのかかわりが大事なのではないかと考えます。お母さん方が自発的にやりたいと思うのであれば、同意書や、カンガルーケアでそうなったのかわからないのに、不明確なリスクの説明も、もしかしたらいらなくなるかもしれません。今回の勉強会はいろいろ考えさせられ、とても参考になる勉強会でした。

(会報誌「満月」2012年6月号に掲載)

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