お産のリスク説明 ~ 福島大野病院事件を振り返って(2)

理事長  小林 哲朗

福島大野病院事件を振り返って

十分なリスク説明はあったのか

福島県立大野病院事件の裁判では、癒着した胎盤を手で剥がすという判断が適切であったかどうかが大きな争点となった。しかし患者に十分なリスク説明があったかどうかということも同じように重要なことだ。癒着した胎盤を手で剥がすには、大量出血の危険がある。同僚から、他院への転院の進言もあったくらいなのだから、当然家族にはそのリスクを説明すべきだが、実際にはどうだったのか。

リスク説明がなくても問題にならないのは、満足できる結果が得られたときだけである。リスクが高いにも関わらず説明がなく、結果が悪いと「お産にはリスクがきものだ」「一生懸命やっての結果だからしょうがない」といわば開き直るのはおかしな話だ。何の問題もなく順調に経過しているお産であっても100%の結果を保証できないのに、その上さらにリスクの高いことをやるのであれば、患者にきちんと説明することは必要不可欠なことだ。

事件後

過度の反応

一方、大野病院事件の後で、訴えられる可能性を少しでも低くするためにと、「妊婦にお産にはリスクがつきもので、大量出血で死ぬこともある」など一般的にあり得るリスクのことをやたらと説明する産科医がいるという。一般的なリスクを列挙したからといって、過失があった場合に、そのことで、責任を免れるということはあり得ないのだから、全く意味がないことである。それどころか、妊婦の精神状態を不安定にし、お産のリスクを高めることにもなりかねない。

もし、どうしてもそうした話をしたいのであれば、少なくとも妊婦が分娩予約を入れたときにするべきだ。そして「お産にはこんなにリスクがありますが本当に産みますか、当院で」と聞くべきだ。

必要なお産のリスク説明とは

では、本当にお産のリスク説明が必要な状況とはどんなものだろうか。例えば、糖尿病や高血圧症の方が妊娠すれば、症状が悪化する恐れがある。逆子で経膣分娩を試みれば、赤ちゃんの体位にもよるが、お産が長引く恐れがある。こうしたケースでは、それぞれの選択肢に、どういうリスクがあるのか説明し、そのリスクを承知の上で、敢えて決断するのかどうかということを確認する必要がある。いわゆるインフォームドコンセントと呼ばれるものだ。リスク説明は、当事者が重要な選択や決断をする時に、納得した判断ができるように必要な情報を提供することだ。

一般的にいっても、お産にリスクがあるということは、当然理解しておくべきことだ。しかし単に妊婦やその家族だけが知っていればいいことではなく、これは社会全体で共有すべきことだ。日本でも、年間数十人の妊産婦がお産で亡くなっており、まさに、お産は命懸けの行為だ。それだけに、社会全体として、お産のこと、妊産婦のことをもっと考える必要がある。

妊産婦をもっといたわらなければいけないという共通認識を持つことも大切だ。電車やバスで、席を譲ることは勿論、会社でも、長時間勤務やきつい仕事はさせないなどといったことが当たり前のようにならないといけない。

(2008年10月8日)

その後

「周産期医療の崩壊をくい止める会」のホームページ
(http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=FrontPage)(09-11-30参照)

第十四回公判について(08/5/16)
第十四回公判傍聴記録 詳報 (08/5/16)

「本件手術までの経過」の見出しの文章の中に、
「中略・・・12月14日午後7時、被告人は夫妻に術前説明を行った。内容は、術中何かあったら双葉厚生病院の医師に応援依頼すること、子宮摘出の可能性、術後血栓症について、36週につきNICUへ搬送の可能性、DICの可能性とICUへ搬送の可能性、手術時間は1時間、出血状況によっては子宮摘出の可能性があることについて説明した。
被告人が他に質問はないですかと聞き、夫妻は特にないと答えて同意書に署名した。」との記載があります。この内容が正しいとすると、妊婦に対する説明はされていたことになり、この事件の問題は、癒着胎盤が予見できたかどうか、癒着胎盤が分かった時点で用手剥離から子宮摘出に移行すべきだったかどうか等に尽きることになると思われます。

(2009年11月30日加筆)

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